第5回、花火大会の日-4
「いいえ、違います」
彼女は片側のイヤホンを外し、優しそうな表情で答えた。
前を歩いていたサラリーマンが一瞬振り返ったのが視界の端でわかった。
しかし、もう人目など気にはならなかった。
「ですよね~、だってこれ俺のだもん」
クスッと笑う彼女
「さっき俺とすれ違ったの知ってます?」
「えぇ」
「2回すれ違ったんですけど」
「いえ、それは知らないです」
「最初友達と駅に行きましたよね、その後1人で歩いてるの見かけて、めちゃくちゃタイプだったんで、今追いかけて声かけたんです。」
俺は緊張もあり、カミまくりだ。
「今日は友達と飲んでたんですか?」
「えぇ、まぁ」
「花火見た後に?」
「花火は見てないんです」
「じゃあ、普通に2人で飲んでたんですね。学生ですか?」
今までにない好感触で、もしかしたらイケるんじゃないかという期待と、失敗したくないという不安が俺の中を錯綜していた。
「学生じゃないですよ、働いてます」
彼女は笑顔で返事をする
「そうなんですか。若そうなんで、大学生ぐらいかと思いました。おいくつ何ですか?」
「21です。」
「そうなんですね、高校卒業してすぐ働いた感じですか?」
「違います。専門学校行ってました。」
彼女も普通に返事をしてくれる。
「何の仕事をしているのか?」
「今日一緒に飲んでた人は、何の繋がりの友人か?」
「出身はどこ?」
など、俺は会話が途切れぬよう一生懸命話しかけた。