第10回、職務質問ー8
俺は終電を逃してもバイクで帰れるが、アラシを乗せて帰るのは不可能だ。
終電を逃したらアラシは帰れない。
「ねぇお兄さん、名前を教えるか、カバンの中を見せるか、どっちかお願いしますよ」
口調は丁寧だが、目は威圧的だ。
「わかった、アラシを家まで送ってやってくれ。そしたら、名前も言うし、カバンの中も見せる。」
「送ったら、カバンの中見せるの?」
不思議そうに聞き返す。
「あぁ、そのかわりちゃんと送れよ」
と俺が言うと、40代の警官は鋭い目つきで、答えた。
「うん、わかった。結論から言うと送ることはできない。名前も言わなくていいし、カバンの中も見せなくていい。もう行っていいよ」
突然のことで俺は呆気にとられた。
別の警官が、まだ食い下がろうとしたのを制して、8人は交番に戻っていった。
アラシは急いで終電に乗った。
なぜあれほどしつこかった警官が、何も確認せず解放したのか。
つまり、こう言うことだと思う。
俺は散々ごねて拒否していたのに、駆け引きを持ちかけて荷物を見せると言った。
そう言えるのは、カバンの中にやましい物が無いからに他ならない。
確認するまでもなく「シロ」だと判断したのだろう。
「あのお巡り、やるなぁ」
そう思いながら、俺は一人バイクで帰った。